
ウェブサイトの使いやすさを左右する重要な要素の1つが「文章」です。
ボタンは「詳しくはこちら」だとクリックされ難い、具体的なアクションをリンクテキストに記載すると良いくらいの知識はある人は多いですが、具体的なコピーにしようとすると逆に凄く長い文章のボタンテキストになってしまうこともあります。
そもそも具体的にするとコピーはシンプルになりません、しかしマイクロコピーはシンプルに書くのも大事という二律背反を含んでいたりするのです。
これはバランスを取らないといけない部分でもあり正しい知識が必要です。ふんわりした知識のままだと、逆にデザインやコピー自体をおかしなものにしかねません。Googleでも適切な文章はプロダクトのUXを大きく左右するといっていて、Googleマテリアルデザインガイドラインでも強調されている考え方です。
今回はコスパよく成果の出るマイクロコピー(UXライティング)についてまとめました。地味な知識かもしれませんが、理解すれば強力なツールになります。あまり触れられていない5つの鉄則と、良い例・悪い例を体系的に解説しましたので、ぜひ参考にしてください。
参考:Google Material Design writing
https://m2.material.io/design/communication/writing.html
1. マイクロコピーとは
マイクロコピーの定義
マイクロコピーとは、アプリやウェブサイト上のボタン、フォーム、見出し、メニューなど、インターフェース上の短い文章のこと。システム改修やデザイン変更と比べ、より少ない工数で改善を始められる施策です。より広義の意味でUXライティングなどとも呼ばれたりします。
マイクロコピーがもたらす2つの効果
1. マーケティング効果
ユーザーの行動を促し、コンバージョン率を向上させます。具体的な価値を示し、不安や迷いを解消する表現が行動の後押しとなります。「30日間無料お試し」という明確な提案や「5分で完了」という時間的価値の提示が、資料ダウンロード数増加、問い合わせフォーム完了率向上、ページ回遊率改善、離脱率低下につながります。適切な言葉選びがユーザーの決断を後押しします。
2. ブランディング効果
企業やサービスの世界観を一貫して表現し、ブランド価値を高めます。例えば、カジュアルな表現や専門的な言葉遣いなど、一貫したトーンとボイスを維持することで、ブランドの個性が強化されます。この一貫性がブランドの記憶度を高め、ユーザー体験の質向上、サービスへの信頼感醸成、競合との差別化に寄与します。言葉は最も費用対効果の高いブランディングツールだったりします。
海外ではマイクロコピーをブランディングに活用する例が豊富です。404エラーページでは、「お探しのページはこの辺りにはないようです」や、「ページを見つけられませんでした。探検を続けましょう」といった個性的な表現が見られます。また、Spotifyがアプリの未使用期間が長いユーザーに送る「We missed you!(あなたがいなくて寂しかったです)」といったリエンゲージメントメッセージも、ブランドの個性を感じさせる良い例です。こうした日常の小さな接点でもブランドらしさを一貫して表現することで、ユーザーとの感情的なつながりを深めています。
2. マイクロコピーの5つの鉄則
効果的なマイクロコピーを書くための5つの基本原則をご紹介します。これらの原則に従うことで、ユーザーの行動を促し、より高いコンバージョンへとつなげられます。ただし、これから紹介する鉄則同士が時に相反することもあるため、状況に応じたバランスの取り方が重要です。
- 鉄則1.具体的に書く
- 鉄則2.ユーザー視点で書く
- 鉄則3.シンプルに書く
- 鉄則4.行動を促す
- 鉄則5.ブランドの個性を表現する
鉄則1.具体的に書く
抽象的な表現は、ユーザーにとって価値が見えにくく、行動の障壁となります。具体的な数値や事実で価値を示すことで、ユーザーは自分にとってのメリットを理解しやすくなります。ただし、特にボタンなどの限られたスペースでは「鉄則3:シンプルに書く」とのバランスが重要です。具体性を追求しすぎると文章が長くなりすぎる場合は、最も重要な要素だけを残すことを検討する必要があります。
例:サービス説明
❌ 「充実したサポート体制」
✅ 「専任コンサルタントが平日9-19時対応」
例:導入実績
❌ 「多数の企業が導入」
✅ 「製造業・小売業を中心に103社が導入済み」
例:機能紹介
❌ 「便利な分析機能」
✅ 「在庫回転率を3クリックで確認できる分析ダッシュボード」
鉄則2.ユーザー視点で書く
企業視点の形式的な表現は、無意識のうちにユーザーとの距離を作ります。ユーザー視点の言葉を選ぶことで、サービスへの親近感が生まれ、行動のハードルを下げることができます。一方で、「鉄則5:ブランドの個性を表現する」との兼ね合いも大切です。特に格式高いブランドイメージを持つ企業の場合、カジュアルすぎる表現はかえって違和感を生む可能性があります。
例:メニュー項目
❌ 「弊社のご案内」
✅ 「私たちのミッション」
例:お問い合わせ
❌ 「貴社の課題をお聞かせください」
✅ 「どんな課題を解決したいですか?」
例:フォーム送信
❌ 「ご記入をお願いいたします」
✅ 「30秒で無料相談を始める」
鉄則3.シンプルに書く
長い説明や形式的な表現は、ユーザーの理解を妨げます。簡潔な表現にすることで、メッセージが明確になり、ユーザーは迷いなく次のアクションに進めます。しかし、「鉄則1:具体的に書く」や「鉄則4:行動を促す」を意識しすぎると、どうしても文章が長くなりがち。ボタンやメニュー項目ではシンプルさを優先し、周辺のテキストで補足するなど工夫が必要です。
例:ボタン表示
❌ 「お申し込みはこちらから」
✅ 「今すぐ申し込む」
例:フォーム説明
❌ 「以下の必要事項をご入力ください」
✅ 「3項目だけ入力してください」
例:完了画面
❌ 「送信完了いたしました」
✅ 「ありがとう!送信完了」
鉄則4.行動を促す
ウェブサイトの目的は、最終的にユーザーに行動を促すこと。そのためには、次のアクションを明確に示す表現が効果的です。ただし、行動を強く促そうとするあまり、長い文章になったり押し付けがましい印象を与えたりすると「鉄則3:シンプルに書く」の原則と衝突します。メリットを簡潔に伝えながら行動を促すことがポイントです。
例:資料案内
❌ 「資料ダウンロード」
✅ 「5分で分かる成功事例を読む」
例:サービス紹介
❌ 「サービス一覧」
✅ 「あなたに最適なプランを見つける」
例:キャンペーン
❌ 「キャンペーン情報」
✅ 「今月限定の特典を確認する」
鉄則5.ブランドの個性を表現する
マイクロコピーは、サービスやブランドの個性を伝える重要な要素です。例えば「無料資料」という同じものを提供する場合でも、ブランドによって効果的な表現は大きく異なります。しかし、ブランドらしさを追求するあまり、「鉄則1:具体的に書く」や「鉄則3:シンプルに書く」が犠牲になることも。ブランドの個性を表現しつつも、ユーザビリティを損なわないよう注意が必要です。
例:テクノロジーブランドの例
❌ 「無料資料のお申し込みはこちら」
✅ 「メールアドレスを入力すると自動でPDFが届きます」
例:フレンドリーなブランドの例
❌ 「資料請求フォームへ」
✅ 「カンタン!1分で資料をGET」
例:コンサルティングブランドの例
❌ 「すぐ読める!無料資料」
✅ 「戦略立案のエッセンスをまとめた資料をご用意」
3. シーン別・効果的な文言設計
ウェブサイトのコンバージョンに直結する主要な導線について、効果的な文言設計のポイントをご紹介します。各シーンでユーザーが感じる不安や迷いを解消し、行動を促す表現を選ぶことが大切です。
資料ダウンロードの誘導
資料ダウンロードは、多くのユーザーにとって最初の接点となります。ダウンロード数を増やすには、資料の価値と入手のしやすさを明確に伝えることが重要です。
例:メインボタン
❌ 「資料ダウンロード」
✅ 「業界シェアNo.1の秘訣が分かる資料を見る」
例:フォーム見出し
❌ 「資料請求フォーム」
✅ 「2分で読める成功事例(登録不要)」
例:入力案内
❌ 「ご登録ください」
✅ 「メールアドレスだけで即読める」
チェックポイント
✔︎ 資料の具体的な価値(何が分かるか、何ページか、読む時間など)が明確に伝わっているか
✔︎ 入手のしやすさ(登録の手軽さ、すぐに読めるなど)が伝わっているか
✔︎ ユーザーの不安(登録後どうなるか、個人情報の扱いなど)を解消する表現があるか
問い合わせフォームの最適化
問い合わせフォームは、ユーザーにとって心理的なハードルが最も高い導線の1つです。「お問い合わせ」という一般的な表現では、問い合わせ後の展開が想像しづらく、離脱の原因となります。
フォーム見出し
❌ 「お問い合わせ」
✅ 「まずは無料で相談してみませんか?」
ボタン表示
❌ 「送信する」
✅ 「専任コンサルタントに相談する(最短当日回答)」
入力案内
❌ 「必要事項を入力」
✅ 「入力は3項目だけ・所要時間30秒」
チェックポイント
✔︎ 問い合わせ後の流れ(誰から、いつ、どんな返答があるか)が明確になっているか
✔︎ 入力の手軽さ(項目数、所要時間など)が伝わっているか
✔︎ 「相談」「質問」など、気軽に始められる印象を与える言葉を使っているか
セミナー・イベント申込の訴求
セミナーやイベントへの参加を促すには、得られる価値と参加のしやすさを両立させた表現が効果的です。
見出し表示
❌ 「ウェビナー開催」
✅ 「30分で学ぶDX成功の3つの鍵」
申込ボタン
❌ 「お申し込みはこちら」
✅ 「録画視聴OKの特典付き・今すぐ席を確保」
参加案内
❌ 「プログラムの詳細」
✅ 「このセミナーで解決できる3つの課題を見る」
チェックポイント
✔︎ セミナーやイベントで得られる具体的な価値(何を学べるか、何が解決するか)が明確か
✔︎ 参加のハードルを下げる要素(時間、場所、録画視聴可否など)があるか
✔︎ 緊急性や希少性(席数限定、期間限定など)が伝わっているか
無料トライアルへの誘導
多くのSaaSで導入されている無料トライアル。期間や機能の制限、リスクの有無など、ユーザーが気になるポイントを明確に示すことが大切です。
メインボタン
❌ 「無料トライアル」
✅ 「14日間すべての機能を無料で試す」
特長説明
❌ 「お試し利用できます」
✅ 「クレジットカード不要・いつでも解約OK」
開始案内
❌ 「登録して利用開始」
✅ 「メールアドレスだけで60秒で始められる」
チェックポイント
✔︎ 試用期間や機能制限の有無が明確に伝わっているか
✔︎ 解約条件やクレジットカードの要否など、不安要素を解消する表現があるか
✔︎ 始める手軽さ(登録のしやすさ、始めるまでの時間など)が伝わっているか
サービス・機能紹介
機能や料金ページでは、ユーザーにとってのメリットを具体化することがポイントです。
機能一覧
❌ 「分析機能搭載」
✅ 「月次レポートが自動生成され、前月比±10%の変動を自動検知」
料金プラン
❌ 「スタンダードプラン」
✅ 「月額9,800円で5名まで利用可能・成長企業向け」
限定機能
❌ 「プレミアム限定」
✅ 「大規模データ(100万行以上)も処理可能・エンタープライズ向け」
チェックポイント
✔︎ 機能が実現する具体的なメリットや効果が明確に伝わっているか
✔︎ 利用シーンや適切なユーザー像が想像できる表現になっているか
✔︎ 数値や具体例で機能の価値を説明できているか
実績・事例の見せ方
導入実績や事例は、サービスの信頼性を高める重要な要素です。数値化できる効果や、実際の活用シーンを示すことが効果的です。
実績紹介
❌ 「多数の企業が導入」
✅ 「上場企業43社を含む計127社が業務効率化に成功」
事例見出し
❌ 「導入事例一覧」
✅ 「月間40時間の作業が自動化された小売業の事例」
効果説明
❌ 「業務改善に成功」
✅ 「在庫管理時間76%削減・人的ミス98%減少を実現」
チェックポイント
✔︎ 業種や企業規模など、具体的な導入実績が伝わっているか
✔︎ 数値化された効果や成果が示されているか
✔︎ 読み手が自社に置き換えて想像できるような具体例になっているか
会社情報の伝え方
企業情報は、サービスへの信頼感を醸成する重要なページです。企業の個性やユーザーにとってのメリットを示す表現を選ぶと効果的です。
会社紹介
❌ 「会社概要」
✅ 「私たちがお客様の課題にこだわる理由」
ミッション
❌ 「企業理念」
✅ 「2030年までに実現したい未来の姿」
メンバー紹介
❌ 「スタッフ一覧」
✅ 「元エンジニア・コンサルタント・営業が集まったチーム」
チェックポイント
✔︎ 企業の特長や強みが具体的に伝わっているか
✔︎ 企業理念やビジョンが顧客視点で表現されているか
✔︎ 人となりや専門性が伝わるスタッフ紹介になっているか
4. 効果測定と改善
マイクロコピーの改善は、継続的な効果測定と改善が大切です。以下のような指標で効果を確認しながら、段階的に改善を進めていくのが正攻法です。
- コンバージョン率の変化
- フォーム完了率
- ページの離脱率
- クリック率
- 滞在時間
ただし、数値だけでなく「ユーザーがどう感じたか」という定性的な部分も重要です。A/Bテストや、実際のユーザーの声を参考にしながら、最適な表現を見つけていくのがおすすめです。
5. まとめ
ウェブサイト上の小さな文章の1つ1つが、ユーザーの行動を促し、ブランドの個性を表現する大切な要素となります。この記事では、効果的なマイクロコピーを実現するための考え方と実践的な改善方法を紹介してきました。
マイクロコピーの基本原則を振り返ると:
- 具体的に書く:抽象的な表現を避け、数値や事実で価値を示す
- ユーザー視点で書く:企業視点の形式的な表現を避け、得られる価値を明確に
- シンプルに書く:不要な敬語や長い文章を避け、理解しやすく
- 行動を促す:次のアクションを明確に示し、迷いをなくす
- ブランドの個性を表現:サービスの世界観に合った表現を選ぶ
早速、自社のウェブサイトを見直してみませんか?
Step1: 導線をチェック
- ダウンロードボタン、フォーム、セミナー申込など、コンバージョンにつながる重要な導線から見直す
- それぞれの導線で、ユーザーが次のアクションを取るために必要な情報が書かれているか確認する
Step2: 表現をチェック
- 「充実」「豊富」「便利」といった抽象的な表現を探す
- 「弊社」「貴社」など、企業視点の言葉を見つける
- 数値や具体例で置き換えられる部分を探す
Step3: ブランドをチェック
- 表現の一貫性を確認する(カジュアルすぎる箇所、フォーマルすぎる箇所)
- 競合と似たような表現を使っていないか
- 自社らしさが伝わる表現になっているか
システム改修やデザイン変更と比べ、マイクロコピーの改善は比較的少ない工数で始められます。まずは1つの導線から見直してみるのはいかがでしょうか。小さな改善の積み重ねが、より大きな成果につながっていきます。